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「ソーシャルリクルーティング」事例 - アイティメディア株式会社 -

では、ソーシャルリクルーティングを導入した場合、具体的な採用活動はどのように展開されるのだろうか。ここでは、前年までの就職サイトを中心とした新卒採用から一転して、ほぼソーシャルメディアだけを活用して2011年度新卒採用を行った「アイティメディア株式会社」の事例を紹介してみよう。

この事例は、ソーシャルリクルーティングを全面的に導入して成功を収めた、おそらくわが国でもっとも早い時期のケーススタディーといえる。非常に動きの速い分野なので、当時(2009年~2010年)と現在(2011年)とでは、利用するツールや採用活動の進め方などが一部変わっている部分もあるということだが、「ソーシャルリクルーティングとはどのようなものか」を理解していただくための基本的な事例として、多くの参考になるポイントを含んでいる。
※本章は、アイティメディア株式会社、人事担当部長でプロジェクトをリードした浦野平也氏に伺った話をもとに構成した。

背景

まず、ソーシャルリクルーティングを導入した直接の契機として、浦野部長は「アイティメディアの事業戦略が大きく転換したことによって、新卒採用で求める人材像が変化したこと」をあげている。 同社は当時、それまでの「メディア企業」という位置づけから、よりソーシャルかつスマートな「WEBサービス企業」へと事業コンセプトを変えつつあった。当然、求める層も、従来の「広い意味でのマスコミ志向の人材」ではなく、「新しいWEBビジネスを創れる人材」へと変化する。この点については、経営陣も人事も認識を共有していた。

当時、Twitterの利用率は国内で約16%、ユーザー数は98万人。また、就職を希望する大学生の利用率は約30%だった。数だけで判断すれば、母集団形成に使えるツールとは考えにくいが、同社の望む「新しいWEBビジネスを創れる人材」はおそらくこの「ソーシャルメディアを使いこなしている層」の中にいるだろうと考えられた。

2011年卒採用での具体的な活動(2009年~2010年)

●Twitter

アイティメディアのソーシャルリクルーティング1年目(2011年卒採用)の活動はTwitterを中心に行われた。時期的にいえば、2009年の夏ごろには採用のためのTwitterのアカウントを取得し、アプローチ可能な学生を探し始めた。
具体的な方法としては、まず「就活」「IT」「WEB」といったキーワードでヒットした学生のアカウントのリストを作成し、発言内容などを継続的にウォッチしていく。その中で「これは」と思える人材には適切なタイミングでリプライ(発言に対する返信、コメント)を入れ、反応が良ければフォローもし始める。 浦野部長によると、「このタイミングには非常に気を使った」とのことで、「社会人や企業からのアドバイスが欲しそうな時」がベストタイミングだったという。その場合も、「迷惑であればブロックしてください」などと相手への気遣いを必ずつけ加えた。とはいえ、このあたりはまさにノウハウということになるだろう。

結果的には、同社のTwitterを使った「一本釣り」は、572名のフォロワー(アイティメディアの採用アカウントからの情報発信を受け取る集団)に結びついている。2009年から2010年の時点でTwitterを利用している学生というのは、もともとIT/WEBビジネスなどに興味がある層が多く、アイティメディアの知名度も非常に高かったためだ。

浦野部長は、「この時に接触できた学生は、論理性・社会性が高い、つまりリーダーシップのとれる人材が多かった。おそらくどんな業界でも欲しくなる層だったと思う」と分析する。また「IT業界に興味を示す人材が多く、フォロワーになってくれた572名のうち263名が当社にエントリーしてくれた」と、非常に効率のよい採用活動ができたという。企業理解度も高く、会社説明会に来た時点で、すでに事業内容などをかなり正確に把握している学生が多かったそうだ。

●ブログ、Ustream

Twitter以外で同社が利用したソーシャルメディアとしては、ブログとUstreamがある。

まず、ブログはリアルタイムで流れていくTwitterの情報とは異なる、記録性を重視した情報発信に利用した。内容は「学生にとって有益な情報であること」にこだわり、さらに「プロの視点、プロの意見・分析」を提供することを徹底した。相手が学生だからといってレベルは落とさない。つまり、ビジネスに対してどんなスタンスの会社なのか、どんな考え方の人間がいるのかなどを学生に真摯に伝える場としてブログを活用した。

Ustreamは、会社説明会・会社訪問を生中継するために利用した(中継終了後はアーカイブも公開)。結果的に、地方や海外からのエントリー者の割合が増えた。UstreamはTwitterと連動させることもできるので、生中継時にはTwitterの担当者を1名配置。アイティメディアと学生、また学生同士のTwitterでのコミュニケーションは非常な賑わいを見せた。また、そのTwitterでの盛り上がりを見て、アイティメディアに関心を持ってくれた学生もいた。

●選考

面接は、従来平均3~4回行っていたが2回程度になった。Twitterやブログなどで、お互いの情報を相当共有した段階から面接が始まるので、いきなり核心に迫る内容になるからだ。また、スカイプ(Skype:インターネット電話サービス)を利用した遠隔地面接も、地方や海外に在住している学生を対象に行った。

●フォロー

内定から入社までの内定者フォローも、Twitterなどソーシャルメディアを利用して行った。

その結果、2011年4月にはビジネス思考やコミュニケーション力が高い優秀な新入社員5名を迎えることができた。驚くことに、採用コストはわずか19万円だという。その内訳のほとんどはリクルーター費、内定者懇親会費、選考時の学生への交通費などが占めており、広告費やサイト構築費は実質0円であった。

2012年卒採用の最新動向(2010年~現在)

アイティメディアでは、2012年卒採用からTwitterよりもFacebookにシフトしてソーシャルリクルーティングを継続している。その理由としては、Twitterを利用する学生が急増したことによって、その中からビジネス適性の高い学生を探すのが容易ではなくなったことがある。逆にFacebookは、実名利用が原則ということもあって、ビジネス志向が強くネットワークづくりに真剣な学生の割合が高いと見ている。浦野部長によれば、「レベルの高い技術系学生、語学に強い学生、経営感覚を持った学生など、それぞれ個性的な学生に出会うことができ非常に満足」とのことだ。

2011年卒採用では、Twitterを使った一本釣りで候補者をリストアップしていった同社だが、Facebookを使った2012年度採用では、何人かのキーパーソンから「友達」のネットワークを使って母集団を形成していった。事前にFacebook上でのやりとりを重ねたり、ブログの文章を読んでもらったりしたことによって、お互いについての情報を十分に持っていたので、面接もいきなり本題から入っていくことになる。その結果、やはり面接回数は少なくなり、非常に優秀な技術系の人材に1回で内定を出した例もあった。この成果を受けて、同社では2013年卒採用でもFacebookを中心にしていく方針を固めている。また、状況を見ながらリンクトイン(LinkedIn)などの活用も検討している。

ソーシャルリクルーティングにより新卒採用が変化

また、浦野部長はこうしたソーシャルリクルーティングの成功を重ねていくことで、「徐々に新卒採用という業務の性質が変化していくのではないか」と分析している。

一般に、新卒採用は毎年「ゼロからスタートする」という企業がほとんどだろう。就職活動が終わった年度の学生とはいったん縁が切れ、新たに母集団形成から始めることになる。 しかし、企業と学生が対等な立場で理解しあうことが前提となるソーシャルリクルーティングでは、就職活動を通じて形成された企業と学生の信頼関係を、就職後もそのまま継続していくことが可能となる。つまり、新卒の時には何らかの理由で入社にまで至らなかった学生をフォローし続けることで、第二新卒、または中途採用時の候補者リストとして活用することができるのだ。 新卒採用が、新卒を採用するためだけの業務から、将来の中途採用、あるいはビジネス上の提携先・取引先開拓などともシームレスに連動する業務へと変化していくということである。

また、大学の1・2年生の時からソーシャルメディア上で活発な動きをしている学生を早い段階からフォローしていくような長期的取り組みが普通になれば、卒業年度に差しかかった頃には、すでに母集団は形成されているといった状況も十分に考えられる。

つまり、母集団形成が、毎年ゼロから始めるものではなく、数年間かけてじっくり行っていくものに変化していく。さらに、優秀な人材を取りこぼさないために、大学1・2年生、場合によっては高校生・中学生までを対象とするインターンなどを募集し、ソーシャルメディア上で長期的に信頼関係を築いていくことが重要になってくるかもしれない。

アイティメディアでは、こうした次世代型新卒採用のプラットホームとしては、今のところFacebookがもっとも有効と考え、その活用スタイルやネットワーク形成のためのノウハウをさらに深く模索している。

アイティメディアの事例から読み取れるもの【成功の要因】

1)もともとターゲットとの親和性の高い企業だった

2009年から2010年の段階でソーシャルメディア(この場合は主にTwitter)を使いこなしていた学生は、やはりIT/WEB、あるいは同業界での起業などに関心の高い学生だった。アイティメディアの場合は、こうしたソーシャルメディア上にいた学生と自社が求める人材像がほぼ一致したので、大きな成功につながったと考えられる。

2)事業戦略にもとづいて採用戦略を再構築した

アイティメディアの求める人材像は、同社の事業戦略から導かれたもので、経営陣と人事がその価値観を共有できていた。ソーシャルリクルーティングは、それを導入すること自体が目的であってはならず、自社の事業戦略に最適の人材を採用することが目的であることを忘れてはならない。その人材がソーシャルメディア上にいない(いても少数)のなら、ソーシャルリクルーティングを導入する意味はないといえる。

3)ソーシャルなロジックを十分踏まえて採用活動を進めた

ソーシャルメディアは、就職サイトのような送り手側による情報コントロールが効かない世界である。都合のいい情報だけ出して、それ以外の情報は伏せるといったことはできない。なぜなら、受け手から突っ込まれた時、回答しなかったり適当に回答したりしてしまうと、それが悪い情報として一気にネット中に広がってしまうからだ。このソーシャルなロジックへの理解がない状態でソーシャルリクルーティングを行うと思わぬ失敗を招く危険性がある。また、これは人事だけでなく経営陣や他部署も十分に認識しておく必要がある。

4)費用のかわりに手間をかけた

就職サイトなどへの参画費用は大幅に削減できたが、インターネット上で一本釣りを行う手間と工夫は相当に必要であった。また、担当者は先述のソーシャルなロジックを理解していることが必須となる。関わる社員にはコミュニケーションのガイドラインを示して徹底することが欠かせない。

5)厳選採用とソーシャルリクルーティングがマッチした

アイティメディア・浦野部長の感覚では、「人事担当者が1名の企業で、採用コストがほぼ0円であっても、6名程度までなら優秀人材を十分採用できる」ということである。単純に考えれば、採用担当者を増員すれば採用数も拡大できるが、そうすることでコミュニケーションやメッセージに「ぶれ」が生じてくる可能性も増えるだろう。また、ソーシャルリクルーティングのプロセスをアウトソーシングするということも現状では考えにくい。数十名、数百名という規模の採用をソーシャルリクルーティングで賄うのは現実的ではないのではないか。

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企画・編集:『日本の人事部』編集部

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